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大阪地方裁判所 昭和29年(ソ)11号 決定

抗告人 金沢平翰

相手方 秋山小まつ 外一名

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨とするところは

抗告人と相手方等との間に昭和二十九年九月八日大阪簡易裁判所において、相手方等は申立人に対し金二百六十三万円の連帯債務あることを認め同月十五日限りこれを抗告人方へ持参支払うこと、右期日に不履行のときは相手方等はその所有の別紙目録〈省略〉記載の土地建物を代物弁済として抗告人に移転し、その移転登記手続をなすこと、その後相手方等は一ケ月後に何等催告もなくして右土地建物を抗告人に明渡すること等の和解が成立し同日附調書が作成された。

そこで抗告人は右和解調書により執行をなさうとしていたところ、相手方は同二十九年十月十八日大阪簡易裁判所において右和解調書の作成にあたり相手方等の代理人を定めたこともないのに抗告人において曾つて相手方等より騙取していた白紙委任状を利用し第三者を相手方等の代理人として右和解を成立したものであると申立て同裁判所において同二十九年十月十八日右停止決定をうけた。そして右決定は同年十月二十七日抗告人に告知されたのであるが、相手方等の右理由は全く事実と相違し単に強制執行を妨害延期する意図のもとになしたものであるからここに取消を求めるというにある。

いつたい民事訴訟法第五百四十七条の強制執行停止決定および執行処分の取消決定はいづれもその本案たる異議の訴訟につき判決がなされるまでの仮定的且つ附随的になされる裁判であるからこれに対し同法第五百条第三項のごとき規定はないが右規定を類推して同決定に対しては同法第五百五十八条により独立して不服申立を許さぬものと解すべきである。

けだし同法第五百四十七条第二項によれば「異議ノ為メ主張シタル事情ガ法律上理由アリト見エ且事実上ノ点ニ付キ疏明アリタルトキ」に一応本案判決あるまで右申立の事実を基礎として法律関係を定め(所謂事実的形成)、その執行を停止するものである。即ち、右法律上正当であり且、事実上勝訴の蓋然性ありと受訴裁判所が認めて、執行を停止しておき、一方その間、本案の進行によりその訴訟において実体法上の関係が明瞭になり確定(所謂実体形成)されるのであるが、右停止決定は蓋然性から確実性へと進むまでの暫定的調整を目的としたものとみることができる。

したがつて、はじめの蓋然性より確実性までの間に漸次判断が修正されて行くような可能性がある場合に限り、その事実的形成の面において(すなわち強制執行停止決定につき)修正をしなければならない。そして一旦右蓋然性の程度で判断した事実的形成面(停止決定)で不適当なことが明らかとなつたときは、申立により当然受訴裁判所で右停止決定の修正をしなければならない。右のように同法五百四十七条第二項の停止決定は本案の実体形成を事実的形成面に反映してなされることを目的とするものである。

それ故本案につきいまだ訴訟の繋属がない上級審が右停止決定のみにつき審査することは本案の手続に附随する右決定の性質に反するものでありまたこれをなしうるとすれば、本案につき再び右実体形成の審査をすすめるという二重の判断をすることになり所謂、屋上に屋を重ねることになる。これは本来の制度の目的に沿わないものといわねばならない。

また右停止決定に対して即時抗告がなしうるとの見解において、即時抗告によつて停止決定が停止されると執行手続が続行されてその執行の完結によつて本案の異議訴訟の目的を消失させる場合がある。この点につき右停止命令はその性質上不服の申立あつた一事によりその執行を阻止すべきではないとするが、右は、即時抗告に限り執行停止の効力を有する(同法第四百十八条第一項)原則を全く乱すことになり理論上妥当といえない。

また本件停止決定は前記のように附随的ではあるが、本案訴訟と仮処分の裁判との関係と同程度の従属的関係を有するものであるから即時抗告によつて上級審の判断をうることができるとの見解があるが、仮処分の裁判(決定の場合)にあつては直ちに上級審の判断あるまで異議申立により当該裁判所における修正の余地が与えられているに反し、本件決定にあつては直ちに上級審における判断を得しむるとするのはそれ以上の独立訴訟的性格を附与することになり結局右は附随的訴訟の本質から遊離した見解といわざるを得ない。

以上の理由により同法第五百四十七条第二項の停止決定に対する即時抗告は不適法であるから本件の申立を却下することとし民事訴訟法第四百十四条第三百八十三条第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 乾久治 松本保三 入江博子)

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